2-6 苦渋***6***「う・・・!!」 有芯は起き上がろうとしたが、頭がズキズキし、再びベッドに横になった。 腕も痛むので見ると、そこには分厚く包帯が巻かれている。おそるおそる触ると激痛が走った。 「い、てぇーーーーーっ・・・マジかよ、なんだこれ?!」 そう呟いた瞬間、倒れる寸前の出来事を思い出し、有芯は青ざめると頭と腕の痛みも忘れ、勢いよく起き上がった。 「朝子!! 朝子?! 朝子――――――!!」 有芯の発狂したような叫び声に、医師一人と看護師数人が飛んできた。 「大丈夫ですよ、落ち着いてください」 優しい声で言った看護師に、有芯は詰め寄った。 「あいつは? あいつは?!」 すかさず医者が間に入り、有芯の肩を掴むとベッドに座らせた。 「あなたを撃った男なら、あの後すぐに尾行中の警官に取り押さえられました。だからもう安全です」 有芯はもどかしさで声を荒げた。 「そうじゃねぇ!! 朝子は?! 朝子は無事なのか?!」 「は・・・? 撃たれたのは、あなただけですが・・・?」 「じゃあ朝子は?! 朝子はどこに行ったんだ?!」 「朝子さんなら」車椅子に乗った男が突如現れ、冷静な声で言った。「無事家に着いてる。確認が取れたよ」 「宏信・・・?!」 有芯は突然、朝子にプロポーズをして、あっさり振られたことを思い出した。 「は・・・・・っ・・・」 有芯の顔が歪んだ。 「よかった・・・」 「有芯・・・」 有芯の目から、涙が溢れ、こぼれ落ちた。 「よかった・・・ぐ・・・うっ・・・」 お前は家族の元へ帰ったんだな・・・。 それでよかったんだ・・・。そうでなければ、間違いなくお前も狙われていた。 医師は有芯が静かになったので、現状の説明をした。 「お倒れになった原因は熱中症です。ろくに水分も摂らず、ずいぶん無理なさったんでしょう。若い人がここまで悪化するのは珍しいですよ。でも・・・もうかなりいいみたいですね。腕の傷も、浅くて何より。このまま経過が順調に行けば、明日にでも退院できますよ」 そう言い聴診器を外すと、ひとまず落ち着いた有芯を残し、医師と看護師は退室した。 宏信は一緒に退室しようか迷ったが出るタイミングを逃し、今は無表情になり涙を流す有芯を、ただ見つめることしかできなかった。 7へ ジャンル別一覧
人気のクチコミテーマ
|